1万種類を超える法的書類を顧客に代わって作成
法律系の資格取得を考えるときに、多くの人が最初に取得を検討するのがこの「行政書士」ではないでしょうか。「行政書士」は国家資格のひとつであり、法律関連の資格のなかでは比較的合格しやすい試験としてもとても人気のある資格です。ただ、知名度こそ高い「行政書士」ですが、その仕事内容や実際の働き方、活躍場所など実はあまり知られていません。ここでは実際の行政書士の仕事内容や、どんなフィールドで活躍できるのか、また仕事のやりがいなどについてご紹介します。
法律系の国家資格のなかでも人気のある行政書士。その業務は多岐にわたりますが、具体的にはどのような仕事をしているのでしょうか?
行政書士について、ただ文書を作成しているだけだと思う方もいるかもしれませんが、実はトラブルを回避するための予防法務やビジネスコンサルタントなども行ないます。
この記事では、行政書士の仕事内容や長く活躍するために必要なこと、行政書士資格の取り方などについて詳しく解説していきます。行政書士の仕事に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
行政書士は法律系の国家資格であり、文書作成のプロフェッショナルとしてビジネスや暮らしのさまざまな場面で活躍します。
行政書士のおもな業務は、「重要書類の作成・代行手続き」「トラブルを回避する予防法務」「ビジネスコンサルタント」です。
それぞれの業務について、詳しく見ていきましょう。
行政書士はクライアントに代わって、官公署に提出する許認可、権利義務、事実証明などに関する書類を作成し、場合によっては書類の提出も代行します。
官公署に提出する書類の多くは非常に複雑で、正しい書式で書類を作成したり、必要な添付書類を集めたりするだけでも大変です。そのうえ、運送業・建設業などに必要な許認可の書類を提出する場合は書類作成だけでなく、聴聞や審査請求などの手続きもすることができます。
このように、行政書士が複雑な書類の作成から提出までを一貫して請け負うことで、クライアントの負担を大きく減らしています。
なお、官公署に提出する書類や、許認可・権利義務・事実証明などに関する書類の作成は行政書士の独占業務です。法律で認められている例外を除いて、行政書士以外が仕事としてこの業務を行なうことは法律で禁止されています。
予防法務とは、将来における法的リスクを回避、または軽減するための業務を指します。行政書士は、法的紛争が起こったときの被害を最小限に抑えるために、法律の知識や法実務上のノウハウを使い、事前に対策を講じるのです。
例えば、契約書を作成せずに業務を行なうと、業務後に費用を請求してもお金が支払われないリスクが想定されます。このリスクに備える予防法務には、不備のない契約書の作成や、契約書に料金が不払いになった場合の条項を盛り込むことなどが挙げられるでしょう。
ビジネスコンサルタントというと、企業の経営や企画について相談を受けることをイメージするかもしれませんが、行政書士の場合は書類に関する相談を受けます。
先述のとおり、官公署に提出する文書は複雑なため、何から手を付ければ良いかわからない方は少なくないでしょう。
行政書士はそういった方から相談を受け、経営や事業に関するアドバイスを行なったり、目的達成のために何が必要なのかを一緒に考えたりすることも仕事の一つです。行政書士が作成できる書類は数多く、さまざまな業種の相談を受け付けられるため、コンサルタントとしての幅も広いといえます。
文書に関する、さまざまな仕事を行なう行政書士の魅力は、文書作成の専門家として活躍できることだけではありません。
行政書士国家資格の取得に関する魅力として、次の3つをご紹介します。
行政書士は実務経験を積むことなく、資格取得後すぐに開業できます。
開業すると事業主になれるため、経営方針や給与の設定、休暇の取り方などを自由に決められます。独立開業は自由度が高く、自分の力で仕事をしていきたい方に適した働き方といえるでしょう。
ただし、開業すると営業や報酬交渉など、行政書士としての業務以外の負担も増えます。仕事を取れなければ収入もなくなってしまうため、開業する場合はすべてが自己責任だということを把握しておいてください。
なかには、資格取得後すぐに開業せず、行政書士事務所などに勤務して経験を積み、実績や人脈を作ってから独立開業へ踏み出す方もいます。
このように、行政書士は自分のアイデアと働き方次第で、誰もが活躍できる職業だといえるでしょう。
行政書士は数ある資格のなかでも特に業務範囲が広いため、幅広い業種の人と関われます。
さまざまな業種の人と仕事をすると新しいことを知れるだけでなく、仕事を通じて人脈が広がり、業務の拡大や新規案件の獲得にもつながります。
また、興味がある分野や得意な分野に絞って仕事をすれば、専門性の高い行政書士としてアピールできるでしょう。
行政書士は合格率10%程度の難関資格ではありますが、その他の法律系資格と比べると難しくはないため、法律系資格の入門的な存在だといえるでしょう。
行政書士試験は、他の法律系資格と出題範囲が重複する部分があり、行政書士以外の法律系資格を取得する際にも役立ちます。
そのため、行政書士資格を取得したあと、司法書士や社会保険労務士などの資格取得を目指す方もいます。複数の資格をかけ合わせれば、業務の幅が広がって市場価値も高まるため、収入アップにつながるでしょう。
さまざまな魅力のある行政書士ですが、その仕事に将来性はあるのでしょうか。
ここからは行政書士の仕事内容や、事務所に所属する場合と独立開業する場合の働き方、より長く活躍するために必要なことを解説します。
行政書士の仕事は、日常生活からビジネスに関するものまで多岐にわたり、扱える書類は1万種以上にのぼります。ほんの一部ですが、行政書士の業務を簡単にご紹介します。
<暮らしに関わる相談>
<ビジネスに関わる相談>
行政書士の働き方は、雇用されるか独立開業するかの2パターンに大きく分かれます。
雇用される場合は行政書士事務所や法律事務所などで働き、一般的な会社員と同じように、与えられた仕事をこなすことになります。
事務所などで働く大きなメリットは、行政書士としての経験を積めることです。資格があれば行政書士の業務を行なえますが、実際に仕事をするには、クライアントとやり取りをするうえでのマナーや仕事の進め方などを知っておく必要があります。
行政書士事務所に所属すれば、仕事の進め方を知れるだけでなく人脈作りにも役立ち、後々の独立開業にもつながるでしょう。なかには、企業に勤めるかたわら、副業として行政書士の仕事をする方もいます。
未経験であっても、行政書士は資格取得後すぐに独立開業できます。
独立すれば、いつ誰と働くかなどを自由に選べるため、誰にも指示されず自分で判断して働きたい方に適した環境といえます。定年退職もないため、期間を気にせず長く働くことも可能です。
行政書士としての実績を重ねていけば、クライアントと仕事をするだけでなく、講演を行なったり書籍を出版したりすることも可能でしょう。
ただし、独立開業すると、営業・報酬交渉・連絡調整・費用請求などをすべて自己責任で行なわなければなりません。独立開業を目指す場合は、このような手間が発生することを理解しておきましょう。
行政書士の仕事は生活やビジネスに密接に関わっているため、常に一定の需要があります。行政書士の資格があれば、仕事がなくて困ることはあまりないでしょう。
しかし、AIの台頭や文書の電子化などにより、行政書士の仕事が今後減っていく可能性があります。行政書士として働き続けるなら、社会の変化に応じて、AIが行なえないような複雑な仕事もできるようになっておくとよいでしょう。
将来的な社会の変化に対応し、クライアントに必要とされる行政書士であり続けるためには、以下4つのポイントを押さえておきましょう。
行政書士は幅広い分野の業務を取り扱いますが、そのなかでも自分の得意な分野や、社会的需要の高い分野に関して専門性を高めておきましょう。
分野を絞って実績を作っておくと、「実績のあるこの分野なら任せてください」とクライアントへアピールできるため、仕事を取りやすくなります。
新しい技術が開発されたり制度が作られたりすると、許認可などの手続きが発生するため、行政書士の需要が高まる可能性があります。
例えば、ドローンが一般に普及するようになった際には、飛行の許可・承認に関する業務が増えました。また、新型コロナウイルス感染症が流行してからは、資金調達や補助金などの相談が大幅に増えました。
このような社会の変化にアンテナを張り、今どのような業務が必要とされているかを把握することが大事です。
独立開業をすると、行政書士としての仕事以外に、仕事の管理や金銭管理など経営者としての仕事も行なう必要があります。経営知識がなければ、すぐに廃業することも考えられるので、長く事業を続けるためにも経営知識を身に付けておきましょう。
司法書士・社会保険労務士・中小企業診断士などの資格を行政書士と組み合わせると、仕事の範囲がさらに広がります。
例えば、行政書士と社会保険労務士の資格を持っていれば、会社の設立業務を行なったあとに社会保険手続きを行なえます。
顧客の立場からしても、複数の手続きを別々の人に任せるのではなく、すべての手続きをまとめて任せられるほうが、手間がかからず信頼関係も生まれるのでよいでしょう。
ここからは、行政書士になる方法として一般的な「行政書士国家試験」の受験方法などについて解説していきます。
行政書士になるには、まず国家試験合格を目指しましょう。
行政書士国家試験は年に1回実施されており、受験資格はなく、学歴や国籍を問わず誰でも受験できます。試験に合格し、日本行政書士会連合会の名簿へ登録されると行政書士になれます。
行政書士国家試験 (例年) | ||
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試験日程 | 試験情報公開 | 7月上旬 |
受験申し込み | 手続きは「郵送」又は「インターネット」にて行うことができます | |
試験 | 試 験 日:11月の第2日曜日 試験時間:13:00~16:00 |
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合格発表 | 1月下旬 | |
受験手数料 | 10,400円 |
試験に関する詳しい情報は、一般財団法人 行政書士試験研究センターで確認できます。定期的にホームページを見て、最新の情報をチェックしておきましょう。
なお、弁護士・弁理士・税理士・公認会計士などの資格を取ることで、行政書士の資格を満たすことも可能です。しかし、これらの資格を取得するのは難しいため、行政書士になりたい場合は、行政書士試験合格を目指すことをおすすめします。
行政書士試験の合格率は例年10%前後で推移しています。
行政書士は合格率の低い難関資格ではありますが、合格基準や配点が明確で、対策をしやすい傾向にあります。そのため、合格率一桁の資格もある法律系国家資格のなかでは、比較的取りやすい資格です。
ポイントを押さえて効率良く学習していけば、法律を専門的に学んだことのない方や、独学で試験合格を目指す方でも十分合格を狙えるでしょう。
ちなみに、行政書士以外の法律系国家資格の合格率は、弁理士例年10%前後、司法書士例年5%前後、社会保険労務士例年8%前後、宅建士例年17%前後となっています。
行政書士試験の学習方法には、独学・通信講座・資格スクールの3パターンがあります。それぞれにメリットとデメリットがあるため、自分に合った方法を選ぶとよいでしょう。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
独学 | 費用を抑えられる いつでも始められる |
疑問点を解決しづらい モチベーションを保ちづらい |
通信教育 | 比較的、費用をかけずに学べる 自分のペースで学べる |
理解度を把握しづらい モチベーションを保ちづらい |
資格スクール | 効率的に学べる 一緒に学ぶ仲間に会える モチベーションを保ちやすい |
費用が高い スクールの開講時間に合わせる必要がある |
一日に確保できる勉強時間や法律に関する勉強経験の有無にもよりますが、試験に合格するためには、半年から1年程度の勉強期間が必要とされています。
勉強時間の確保も大変ですが、長期間勉強し続けることはもっと大変です。モチベーションが下がらないように学習環境を早めに整え、試験日までの勉強スケジュールをしっかりと立てておきましょう。
行政書士専用講座のある大原は、効率良く行政書士試験合格を目指したい方におすすめの資格スクールです。大原で学ぶ3つのメリットをご紹介します。
大原には経験豊富な講師陣がそろっており、受講生一人ひとりにきめ細かい受験指導を行なうため、試験本番までモチベーションを下げずに学習を進めやすくなっています。
また、大原で使用するオリジナルの教材は、試験の傾向や法改正を踏まえて毎年改訂されており、試験範囲を過不足なく網羅しています。
行政書士試験には受験資格がなく、受験生のレベルは、初めて法律を学ぶ方からある程度の法律知識を持つ方まで幅広くなっています。
パススルは、学習のすべてがスマホ・タブレットなどのデバイスで完結できます。
場所や時間を選ばず、自分の都合にあわせて学習できる通信講座です。
行政書士は文書作成のプロフェッショナルですが、文書作成以外にも、リスクに備える予防法務や行政手続きのコンサルタントなどの業務も担っています。
取り扱う文書の分野が幅広く、人々の暮らしやビジネスと密接に関わっているため、行政書士は今後も社会に必要とされる職業の一つといえるでしょう。
行政書士になるには、年に1回実施される国家試験に合格する必要があります。学習方法には独学や通信講座、資格スクールなどがありますが、それぞれにメリットとデメリットがあるため、自分に合った方法を選択して合格を目指すとよいでしょう。