23年度税理士試験から受験資格要件が緩和!
見直しの背景や狙いを日税連会長が解説

令和4年税理士法改正により、令和5年(2023年)4月1日以降に実施する税理士試験から受験資格要件が緩和され、会計学科目(簿記論・財務諸表論)はどなたでも受験が可能になるなど、早期の税理士資格取得への期待が高まります。
今回は受験資格要件緩和の背景や狙い、税理士という仕事の魅力や収入などについて日本税理士会連合会会長の神津信一先生にお話を伺いました。

  • 税理士を目指している人
  • 受験資格要件が厳しくて税理士受験を諦めた人
  • キャリアチェンジを考えている人
  • 税理士について知りたい人

税理士について少しでも興味があれば必見の内容です。

【神津 信一(こうづ しんいち)氏 プロフィール】

1968年3月東京都立日比谷高校を卒業、1969年4月慶應義塾大学経済学部に入学。
税理士・公認会計士事務所勤務を経て1980年4月に税理士登録、東京税理士会所属(登録番号44196号)。
1995年6月東京税理士会四谷支部長、2011年6月東京税理士会会長、2015年7月から現職。
企業会計審議会臨時委員、国税審議会委員、政府税制調査会特別委員。

―2022年4月、令和4年度税制改正で税理士法の一部が改正され、税理士試験における受験資格要件が緩和されました。その見直しの背景や狙いをお聞かせください。

今回の改正は、受験生が減少していくという危機感から始まりました。平成17年(2005年)の5.6万人をピークに、年々受験者数が減少しています。令和3年(2021年)は少し回復しましたが、2.7万人にまで減少しています。
税理士は多くの人に頼られる職業であり、社会的なニーズも高いのに、このままでは少子化も相まって、私たちの後に続く人がいなくなってしまう。こうした背景の中で、受験制度に魅力的な仕組みを導入していく必要があったのです。
日本税理士会連合会において、この危機に対処するにはどうしたらいいかと財務省や国税庁と4年間にわたって議論を重ねました。その結果まとまったのが今回の改正です。

―何が今回の改正のポイントだったのでしょうか。

税理士になるには5科目合格が必要で、一つ一つの科目に相応の時間を割く必要があります。数年単位での学習が必要な難しい試験であることは事実です。
にもかかわらず、受験資格を得るためには学識・資格・職歴のいずれかの要件を満たす必要がありました。特に学識要件の「大学3年次以上であること」「法律学又は経済学に属する科目を履修していること」という要件は、若い世代にとっては大きなハードルでした。
この学識による受験資格要件の見直しが今回の改正のポイントです。会計学科目の簿記論と財務諸表論については受験資格を撤廃し、誰でも受験できるようにしました。

―早くからチャレンジできるようにすることで、選択肢としての魅力を高めるということですね。

その通りです。これまでの受験制度では、大学在学中に合格することが難しいのはもちろん、5年や10年かかる可能性もあることから、卒業後の目処も立ちづらく、チャレンジする前から諦めている人が大勢いました。ここを解消することが今回の最大のテーマでした。
公認会計士試験や司法試験も確かに難関ですが、在学中に合格することや目処を立てることが制度的にも実質的にも十分可能です。そうしたこともあって、税理士試験の魅力が相対的に低くなっているという声も聞いています。大学の先生が、試験制度を理由に税理士より公認会計士を薦めるケースもあったようです。
受験資格要件の見直しにより、大学に入ってすぐチャレンジできるので、在学中に5科目合格することもより現実的になってくると思います。既に資格予備校の税理士講座への問い合わせや申込みが増えつつあるという話も聞いており、嬉しく思っています。

―受験資格要件の緩和についてのもう一つのポイントである税法科目の履修科目の見直しについても教えてください。

税理士には一定の基礎的素養が必要ですので、税法科目については受験資格要件を残しています。
しかし、税理士の業務範囲は、いまは税務・会計だけではありません。お客様の良き相談役であるためには、広く社会に関する知識が求められます。税理士法施行以来変わっていなかった「法律学又は経済学」という履修科目要件が時代に合わなくなってきていると言えます。そこで履修科目要件を、法律学・経済学だけではなく、社会学、政治学、行政学、教育学、福祉学、心理学、統計学などが含まれる「社会科学に属する科目」に広げました。
これにより、法学部や経済学部など一部の学部以外の出身者であっても学識による受験資格を得られる可能性が高まり、門戸が広がりました。税理士業界にとっては多様な人材を迎え入れる基盤が整ったことになります。

―今回の改正の狙いが、社会の変化を見据えて、多様な人材を呼び込むことであることが理解できました。

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今後の社会の変化を踏まえた税理士の存在意義・やりがい

―今後の社会における税理士の役割について、神津会長のお考えをもう少し聞かせていただけますか。

近年、日本の国力を疑問視する声が増えています。しかし、世界の中でこれだけ社会インフラが整っている国はないと思います。国民性も素晴らしい。経済的にも豊かで、税収も今年はかなり伸びている。そして、強い大企業とそれを支える380万の中小企業があります。
その中小企業群が少し弱ってきたということが、今の日本経済のウイークポイントだと思います。中小企業は日本の企業数の99.7%を占め、経営者が一人で経営している企業も、数百人の従業員がいる企業も含みます。
こうした中小企業に一番関与しているのが、私たち税理士です。申告書を作成するだけではありません。資金調達の相談に乗ったり、銀行に提出する書類作りをサポートしたり、新型コロナウイルスの感染拡大時は、影響を受けた企業に対して活用できる給付金を紹介し、申請のお手伝いもしました。頼られる相談役として、中小企業の活性化に改めて力を入れるのが社会的使命だと思っています。

―税理士という仕事のやりがいや面白さをどのようにお考えですか。

例えば、中小企業の経営者にとって、1億円の借り入れを行うことは大きな決断です。上手くいかなかったら会社をたたむことも含め、様々なことを経営者は思い悩みます。「ルビコン川を渡る」という例えがありますが、まさにそうです。この状況でどういう助言や支援をするかは、個々の税理士にかかっています。
他にも損益や納税の見込みを踏まえて役員報酬をどうするか、従業員の昇給をどうするか、引当金をどうするかなど、様々なアドバイスを求められます。こうした悩みに、財務諸表をベースに、最適な提案を工夫していくやりがいと面白さがあります。
私自身が税理士を志したのも、会計事務所に勤めていた時に「税理士は人に喜ばれるし、感動を与えられる職業だ」ということを目の当たりにしたことがきっかけです。

AI(人工知能)の進化で税理士の仕事が奪われるという意見もありますが、この点はどのようにお考えですか。

部分的には指摘の通りとも言えます。記帳代行や、申告書作成などの作業についてはITが代替する時代だと思っています。ただ、それ以外の部分に大切な役割があります。例えば、完成した財務諸表を踏まえた経営のアドバイスは依然として人間の仕事です。
仕訳といった一見単純そうな仕事もAIでは判断しきれないことがたくさんあります。確かに、入力を補助し、これは消耗品費なのか修繕費なのかなど、ある程度の候補を提示するところまではITでもできる時代になりました。
しかし、例えば「ホテルのレストランの領収書」をどう仕訳するか。この判断はAIの認識の外側も含めた検討が必要です。誰とどういう目的で食事をしていたのかによって、会議費にも、接待交際費にも、役員賞与にもなりえます。お客さんを招いた勉強会であれば広告宣伝費として処理するという考えもあります。使途不明金として処理することが適切な場合もあります。

―奪われるのではなく、補完関係にあるということでしょうか。

税理士はAIに取って代わられるという議論は既に決着がついていると思います。様々な状況で「公平・中立・簡素」という税の3原則を踏まえて法律に基づいた判断をすることができるのは人間だけです。AIができない部分に税理士の仕事の本質があります。
むしろ、ITによって業務の負担が削減されていくことで生産性が高まっていくと考えていいと思います。昔は決算期は寝る暇もなく徹夜の連続でした。そこをITが解決してくれることで、むしろ仕事としての魅力が増していくと思います。

税理士受験を考える皆さんへ

―どんな人が税理士に向いているとお考えですか。

例えば、発想力の豊かな人には向いています。お客さんの困りごとに対して、良い提案ができることが大切だからです。しかし、発想力がなくても活躍している人もいます。大量の領収書や伝票などを預かり、一枚一枚整理し、決算書を作ることが得意な税理士も貴重な存在です。

―決まった一つの税理士像があるのではなく、自身の個性や能力、思いを踏まえた様々な活躍の場面があるということでしょうか。

その通りです。中小企業と一口にいっても相談内容は様々です。事業を大きくしたり、その先に上場を目指す相談もあれば、経営危機からどう立て直すかという相談もあります。潰れてしまった企業の整理を手伝うこともあります。
大企業に勤めて連結決算や合併など高度な業務を担う道もあります。大手税理士法人で働き、大企業のサポートをすることもできます。上場企業の取締役会で会計面から助言することもあります。
一方でお医者さんや作家さんのようなプロフェッショナルな個人の経理を手伝うこともあります。一般の個人で資産をたくさん持っている人もいます。こうした方々の納税や相続の支援も大切な仕事です。
このようにいろいろな道があるのも税理士という職業の魅力の一つだと思います。

―ありがとうございます。税理士が求められるフィールドの多さを再認識しました。

最近は一流企業を辞めて起業する人も増えていますし、地方に移住して農業を始める人もいます。税理士はこうした人たちにとっても欠かせない職業であり、起業の活性化や地方創生といった日本の大きなテーマにも貢献していると言えます。
私自身は、社会の仕組み作りに関わることもできました。日本税理士会連合会と税理士会には税理士法で認められた建議権があり、税制や税務行政のあり方に対して実務家の視点から提案や指摘ができます。行政や政治との折衝の結果が税制改正に反映されたことは何度もあります。私にとって大きな喜びでした。

―ほかに魅力はありますか。

税理士仲間のつながりも魅力です。全国に今8万人いますが、仲が良い。皆、年をとっても一緒に遊んだり、勉強したりしています。同業者はある意味では商売敵ですが、実際は協力関係であることも多いです。「難しい事案に遭遇して困っている」と悩んでいる時に、仲間が相談に乗ってくれることも珍しくありません。

―収入面ではいかがですか。

私は73歳ですが、今も現役でお金を稼いでおり、お金への不安は少ないです。同級生で働いているのは弁護士と医者と税理士ぐらいで、あとは皆リタイアしています。
生涯獲得賃金でいえば、退職金が多い一流の国家公務員や、一流の上場企業と比べても引けを取りません。上回っている方もたくさんいます。逆に稼げなくて廃業したという話は聞いたことがありません。お客さんに喜ばれる仕事でこれだけの所得を得られることは幸せなことだなと思います。

―いい仕事をしてお客さんの信頼を得れば仕事が広がり、収入も増えていく魅力的な仕事だと再確認しました。

おっしゃる通りです。大企業や中小企業の経営者、国会議員、官僚など様々な人と平等に会えて、真剣な議論ができます。社会のあらゆる場所で、会計や経理が分かる人がまだまだ必要とされています。私自身も本当に幸せな人生を送ることができました。
それにもかかわらず、学生の方々からの人気が落ちている現状があります。この点に危機感を覚え、今回の改正に至りました。

最後に、税理士をキャリアとして考えている人にメッセージをお願いします。

▲税理士会広報キャラクター「にちぜいくん」とともに

少子高齢化で経済が縮小していくと言われますが、私たちの役割はまだまだたくさんあります。しかし、ただ税理士が増えればいいということではありません。一生懸命勉強して税理士試験に合格した人、言い換えれば、消費税や所得税、法人税や資産税などの税務実務に確かな知識をベースに取り組める人の存在が大切だと思います。ぜひ多くの方にキャリアの選択肢として検討してほしいです。
税理士というのは皆さんの生涯をかけるに値する仕事です。一回、企業に就職した方のキャリアチェンジにも向いています。私たちもこうした広報活動も頑張って業界を盛り上げ、皆さんと一緒に日本社会の活性化に貢献していきたいと思います。

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